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白木屋伝兵衛とは

「箒」とは

昔々、箒はただの掃除道具ではありませんでした。奈良の正倉院には、孝謙天皇が蚕 部屋を掃き、豊作を祈るために使った箒がおさめられています。箒はもともと呪術的 な意味が込められた、神事の道具であったようなのです。妊婦のお腹を新しい箒でな でると安産になる、といったおまじないがうまれたのも、人々の意識の中に古い時代 のイメージが残っているからなのかも知れません。このように、千年以上も前から日 本人は、不思議な力をあわせ持つ箒という道具に親しんできましたが、さて、植物を 束ねるという箒の基本的な作り方は昔からずっと変わっていません。

2つのホウキグサ

箒の材料となる植物には、シュロや竹、ワラなどがありますが、その名も「ホウキグサ」という植物をご存知の方も多いと思います。これはホウキギ、ハハキギともいいますが、アカザ科の一年草で、高さは1メートルくらい。茎が枝分かれして丸い形になります。夏には黄緑色の小さな花をつけ、秋には紅葉をしてとてもきれいです。枝や茎が赤く色づいて枯れたものを箒にすることからこの名がつきました。この草の実が“畑のキャビア”と呼ばれるトンブリです。地方によっては、防風のため、庭に植えたりもするそうです。

ところで、この「ホウキグサ」の他にもホウキの名がつく草があるのをご存知でしょうか。こちらもホウキグサと呼ぶことがありますので良く混同されるのですが、正式名を「ホウキモロコシ」といいます。ホウキモロコシはイネ科の一年草で、草丈は約2メートル。座敷箒の「江戸箒」はこのホウキモロコシから作られます。

畳の普及で生まれた江戸箒

座敷箒を作るところは昔からありましたが、「江戸箒」の名で作りはじめたのは、じつは私ども白木屋中村傳兵衛商店です。当店は天保元(1830)年に銀座で創業。その後商人の街京橋に移り、江戸の終わりごろからこの箒を作りつづけています。
江戸時代も中期以降になると、畳が庶民の住居(つまり長屋)にも普及してきます。
ホウキモロコシの江戸箒は、畳にあった箒、長屋暮らしにぴったりの江戸前の箒として生まれました。当たりが柔らかくてコシがあるので、力を入れなくてもササッと掃き出しやすいのが特徴です。アカザ科のホウキグサの枝は固いので、庭掃きにはいいのですが、座敷箒としては使えません。無論フローリングでお十分ご利用いただけます。なお、関西では座敷箒の材料としてシュロが一般的で、ホウキモロコシの箒は江戸独特のものでした。

熟練職人による伝統の技

そこで「ホウキモロコシ」ですが、あちこちに自生するホウキグサとは違い、畑で栽培します。私どもでは、筑波山のふもとの農家で作ってもらっています。ホウキモロコシの名の通り、ぱっと見た感じはトウモロコシ畑そっくり。4月に種をまくと、青い草からだんだん黄色くなって、最後には黒い実が稲みたいに垂れてきます。ただ、そこまで実が出てしまうと箒として使えないので、種まきから3ヵ月たった7月くらいに草(穂)を収穫してしまいます。ちなみに、現在国内でホウキモロコシを栽培する専業農家はほとんどなく、国産品は大変貴重です。

こうして収穫された穂は、天日で3~4日乾燥させ、それから選別をします。自然のものですので、すごく出来のいい年もあれば、ほとんど使えない年もありますが、収穫した半分使えれば良い方ではないでしょうか。この選別、穂選りが江戸箒を作る上で大変重要な作業で、熟練の職人が手で触って、コシがあって柔らかいものを選り分けていきます。こうして選ばれた材料を使うというのが、質の高い箒を作る上で大切なことです。

次に箒を編み上げていく前に、3時間くらい水につけ、湿潤な状態にします。乾燥したままだと折れてしまいますから。編み上げは少しずつ草を束ねたものをつなげていきます。最後に左右と真ん中の3つの大きな束をまとめて締めるのを胴締めといい、このあと、柄をカンカンカンと打ち込みます。付け根の部分を編み上げ、そして穂先を切って整えれば完成です。座敷箒は形で分けると、長柄箒と手箒とに分けられますが、熟練した職人ですと、編み上げから完成まで長柄で1日3~5本というところでしょうか。

使いやすさを極めた形

ホウキモロコシというホウキグサ、しかも国産のものを用い、練達の職人がさらにそれを選び分けて材料とし、編み上げてゆくのが、江戸箒と他の座敷箒との違いです。
そしてもうひとつ違いをあげるならば、その実用的で簡素なフォルムでしょうか。同 じ草の量でも編み方などで重さが全然違います。江戸箒というのは進化を遂げた箒で、バランス良く、軽い箒を追求していったらこの形になった、というところがあります。とくに編み込みの美しさは、“江戸の粋”といえるのではないでしょうか。

江戸箒は座敷箒として使い減りしたら洗面所やトイレ用として、さらに使い減りすれば玄関用として、だんだん下におろしていって使用できるよさもあります。それに植物原料ですから処分に困ることもありません。みなさんにも江戸箒のよさを見直していただいて、伝統の技としての江戸箒が絶えることなく続いていくことを願い、またそうあるべく今後も精進して参ります。